仙台高等裁判所 平成4年(ラ)50号 決定 1992年5月07日
抗告人(破産者)
甲野春子
右代理人弁護士
木村敏雄
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨及び理由は別紙即時抗告状記載のとおりである。
二当裁判所の判断
当裁判所も抗告人には破産法三六六条の九第一号、三七五条一号所定の免責不許可事由が存するものと判断する。
その理由は原決定と同一であるから、これを引用する。
なお本件記録によると、抗告人は接客業に従事していたこともあって洋服を新調する必要があったことなど斟酌すべき事情も存することが認められるけれども、本件記録によると、抗告人は、割賦金の弁済も借入しなければできない状態になってからも洋服を購入し、結局原決定認定のように約六〇着もの洋服を購入して六四四万円もの債務を負って返済不能に陥り、債権者に多大な損害を与えたものであるから、裁量によって免責するのも相当ではない。
三よって、原決定は相当であって、本件申立ては理由がないから主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 石川良雄 裁判官 山口忍 裁判官 佐々木寅男)
別紙即時抗告状
抗告の趣旨
一、原決定を取り消す。
二、破産者甲野春子を免責する。
抗告の理由
一、原裁判所は、抗告人(破産者)の債務は、抗告人がいわゆるブランド物の服に凝り、クレジットシステムを利用して計約六〇着の洋服を、日常生活に必要な範囲を越えて購入したことに起因する債務あるいはその月々の支払いに窮していわゆるサラ金から現金を借り入れたことによる債務であったと認定し、破産者は浪費行為により過大な債務を負担するに至ったものとして、抗告人を免責不許可決定した。
二、しかしながら、抗告人には次のとおり免責不許可事由が存せず、抗告人の免責申立には理由がある。
(一)、抗告人は、山形城北女子高等学校を中退後、各種アルバイトをして稼働した後、長井以内の株式会社メガネセンター長井店においてメガネの店頭販売員として、同市内の株式会社ナチュラルでは健康食品の店頭販売員としてそれぞれ勤務し、平成三年三月ころから米沢市内の有限会社ディノス米沢店(飲食業)においてコンパニオンとして勤務していたが、同年五月末には同社を退職し、その後1カ月位同社においてアルバイトをしていたが、その後、実家である肩書地に戻り、父の営む廃品業の手伝いをしている。
また、抗告人は、右株式会社メガネセンター長井店に勤務していた時は長井市内のスナックで、株式会社ナチュラルに勤務していた時も南陽市内のスナックで夜アルバイトをしていた。
更に、抗告人は、常々親から独立して一人で生活したいと思っていたことから、右株式会社ナチュラル勤務のころは南陽市内で、右有限会社ディノス勤務のころは米沢市内でアパートを借りて一人で生活していた。
(二)、右のとおり抗告人はこれまで接客の仕事をしてきたことから、仕事柄、同じ服や野暮ったい服を着て右各勤務ができなかったし、職場の雰囲気としても絶対にこれを許さない雰囲気を感じとったことから、やむなく洋服購入を繰り返し、その代金支払いについてクレジット(立替金)契約をするためクレジットカードを作り、以後も主に洋服をクレジットにて購入し、その立替金の月賦返済金を給与・アルバイト収入の中から弁済してきたものの、次第にクレジット契約数も増えていき、立替金の月賦返済を支払うために、生活費が足りなくなってクレジット会社や銀行・サラ金会社から借入れを繰り返してしまったために雪だるま式に債務が増大してしまったものである。
(三)、抗告人は、未だ二〇代前半の女性であることから、洋服に興味を持っていたことや、洋服の購入をしていくうちに、多少ブランド品に凝ったことや洋服屋の店員と顔馴染みになったことは否定しないが、例えばブランド品については、右有限会社ディノスに勤務していた時は勤務先の方針により強制的にブランド品の洋服の購入を余儀なくされ、これを着用しないと勤務ができない状況下にあった。その他の勤務先やアルバイト先でも右のような強制はなかったが、これに近い雰囲気があったものである。
また、抗告人は、客観的にみると経済観念にうといことは認めざるを得ないが、破産者の当時の収入とクレジットや借入金の月賦返済金を全く無視して洋服を買い続けたことはなかったものである。
事実、抗告人の過去の収入と毎月の右割賦返済金の支払額は左記のとおりであった。
記
(1)、右株式会社メガネセンター長井店勤務時の月給金一一万円・スナックでのアルバイト月収金八万円合計月収一九万円に対し、その当時の毎月の割賦返済金合計約三ないし四万円。
(2)、右株式会社ナチュラル勤務時の月給金一五万円・スナックでのアルバイト月収四万円合計月収一九万円に対し、その当時の毎月の割賦返済金合計金九ないし一三万円。
(3)、右有限会社ディノス勤務時の月給金二二ないし二六万円に対し、その当時の毎月の割賦返済金合計約金二〇万円。
右のとおり抗告人の収支をみるかぎり、毎月の収入が毎月の割賦返済金を上回っているが、右株式会社ナチュラル・右有限会社ディノス勤務の頃は、アパートで一人暮らしをしていることから当然生活費もかかったことから、毎月の割賦返済金の支払いを続けるため、生活費や不意の出費(例えばアパートを借りるための費用等)により金員が足りなくなってクレジットカードによる借入れ・銀行・サラ金会社からの借入れをしてしまったことも債務が増大した原因である。
(四)、しかしながら、抗告人は毎月の割賦返済金を返済するためや一人暮らしの生活を何とか維持するため、水商売にまで入って稼働しながら懸命に頑張ってきたが、右有限会社ディノスの経営状態が悪化していることを知ったことから同社を退職してしまい、以後高収入を得ることができる勤務先に就職できなかったこと、その後、いつまでも水商売に関わってはいけないと決心したことから、益々再就職ができなかったために、毎月の割賦返済金の支払いが出来なくなってしまったものである。
三、よって、抗告人には原決定の理由で指摘する右免責不許可事由はなかったものというべきであり、原決定を取消して抗告の趣旨記載のとおりの決定を求めるものである。